インドネシアの出版・読書・コミック

約2.9億の人口を持ち、名目GDPは1.49兆ドル、GDP成長率は5%以上で2045年までに世界第四位の経済大国になるという予測もあるインドネシア。一部の出版、コミック関係者からの注目も高い。日本語でも熱心に記事を発信している人たちもいる。が、調べてみると、うーん、どうだろうかと思わないでもない。ここでは統計や論文から見たマクロの視点と現地作家の声を紹介したい。
飯田一史 ichishi iida 2025.04.19
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■出版市場の規模がよくわからない

インドネシアでは政府や出版業界団体による市場・産業規模を示す統計が存在しない。

調査会社による推計だと

出版産業(本、新聞、雑誌)は2021年に総収益15億ドル。2016年から2021年までの複合年間成長率(CAGR)が3.6%。

本セグメントが市場の最大シェア51.3%を占め、総収益は8億ドル

こちらでは、出版市場は2026年までに81億米ドルに達すると予測。

こちらでは書籍市場の収益は2025年に1億3369万米ドルに達すると予測されている。

収益は年平均成長率(CAGR 2025-2029)が0.46%で推移、2029年には市場規模が1億3616万米ドルに達すると予測。

書籍市場の読者数は、2029年までに8230万人に達する見込み。

この市場の平均ユーザー収益(ARPU)は、2.29米ドル。

と書籍市場1.3億ドル(193億円)から8億ドル(1190億円)まで約6倍の幅があってまったくアテにならない。

こちらではインドネシアの書籍、電子書籍、オーディオブックのeコマース市場は、2025年までに22億5,000万米ドルに達すると予測されているのだが、紙の本よりはるかにデカいことになるのでこちらも信用ならない。

比較的信頼できそうなデータとしては、2015年のフランクフルトブックフェアの際にインドネシアの書籍市場についてまとめられた資料がある。

こちらによると

市場規模(売上高)は2013年に約4,810万ユーロ(75億円)、2012年に約4,120万ユーロ。2007年から2012年まで毎年6%成長。

年間発行タイトル数は約40,000。

書籍販売数は2013年には33,199,557冊(国内最大のGramedia Book Storesのデータ)。

主な販売カテゴリーとしては児童書22.11%、フィクション・文学12.64%、宗教・精神11.77%、学校・カリキュラム9.21%、参考書・辞書5.99%、その他39%。

インドネシアは近代化したあとでイスラム教信仰が強まった国であり、その関連書籍が市場の少なくとも30%を占める。

出版書籍の40%以上が翻訳書。

印刷部数は通常4,000~5,000部。10,000~100,000部売れるのは約10~20%。

書籍価格: 教科書:0.60~3ユーロ、小説:4~6ユーロ、児童書:2~4ユーロ、コーヒーテーブルブック(大型ハードカバー):40ユーロ以上。

小売店・オンライン書店: 国内に1,200の書店があり、そのうち280店は大手7社が運営。主要な書店はグラメディア(Gramedia)、トコ・グヌン・アグン(Toko Gunung Agung)。オンライン書店も多数存在ある。ただし島が多く、書籍流通が大きな課題となっている。

電子書籍の売上は総売上高の約2%。

ただし上記は2015年の数字であり、以降の詳細は不明である。

インドネシア出版社協会の報告書によると、80%の出版社が10〜50タイトルの新刊を出版。17%の出版社が50〜200タイトルの書籍を出版し、3%の出版社が2015年に200タイトル以上の書籍を出版している(インドネシア出版社協会のデータ、2015年)。

インドネシアのメディア業界といえばGramediaグループが支配しているというイメージが強いが、数としては零細出版社が多い。

■読書率と読解リテラシーの低さ

インドネシア統計局(BPS)が発表しているインドネシア人の読書活動をしている比率は5歳以上で88%だが、コーラン以外の読書率は低い。

コーラン以外を読むと答えている人の割合は一応半分くらいいるのだが、さらに細かく内訳を見ると物語を読む人の割合は7%しかいない。

さらに2018年のPISAの結果によると、インドネシアの15歳の70%がレベル2以下、つまり短いテキストの中から主要な考えや重要な情報を見つけることさえできない。

これとさきほどの「書籍市場が2013年時点で75億円程度」ということを考えると、あまり有望な市場とは思えない。

名目GDP成長率と書籍への家計支出には強い相関関係があるそうだが、2025年まで6%ずつ成長を続けたとすると現在

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