スペインとフランスの図書館におけるマンガ
2026年2月10日に神保町の出版クラブビルで開催された文化庁「活字文化のグローバル展開推進事業」事務局「仏・西図書館マンガ調査結果発表セミナー」ではスペインとフランスの図書館におけるマンガの扱いが語られた。
配布資料の公開は禁止とのことだったため、ヒアリングした範囲のことをまとめていきたい。
■フランス
フランスで日本のポピュラー文化のジャーナリストとして活躍し、マンガ情報誌の編集長でもあるジャーナリスト・作家のマシュー・ピノン氏の発表。
今回はフランスの図書館20館を調査。農村部から5館(~6000人)、小規模な町6館(1万~5万)、中規模な町3館(5~10万)、大都市から6館(10万人以上)。
この調査ではBD(バンドデシネ)を中心とする「コミック」と、日本の「マンガ」は分けている。
・図書館のなかでマンガはどのように配置されているか
日本マンガが輸入されるにあたっては日本式の年齢適合コード(少年マンガ、少女マンガ、青年マンガ)だったが、これはマンガをある程度知っている人には理解できるが、一般大衆には難しい分け方。
そのため、図書館の分類では棚ではタイトルのアルファベット順でジャンルや対象年齢がバラバラなまま並べている(このスタイルでやっている図書館が半分くらい)。
残り半分は年齢別。棚で「ここは7~11歳」などと分けたり、本に貼るシールの色で子供向け、ティーン向け、大人向けと分ける。
それぞれの図書館がそれぞれのやり方で区別しており、年齢区分も司書に委ねられている。また、「7~11歳向け」にされたタイトルを5歳児が借りられないわけではない。年齢を超えていても借りられる。あくまで目安。
・利用者の反応
調査した図書館からは「利用者の細かい数字は出せない」と言われたが、おもにティーンとYA(10代)。性別は問わない。
司書の評価は「若年層を図書館に呼び込むのは大変難しかったが、マンガは新規の読者や利用者を獲得している」。司書の関心や熱意も高い。ストラスブール図書館では大人向けのマンガの提供はなく、若年読者向けのマンガのみを提供している。
リヨン図書館では、本の中でマンガへのリクエストがもっとも多く、貸出も全カテゴリでもっとも多い。
大人も、図書館での特集や名作マンガ、NetflixやAmazonプライムなどのアニメ配信をきっかけに高齢層まで含めてマンガを新たに知るようになっている。10年前とは大違い。
本を読む子どもに対しては、マンガだろうがなんだろうが保護者は誇りに思っている。
読者からの不満の声としては「子ども向けマンガが足りていない」こと。
マンガは若年読者向けの新規シリーズが少ない。2024~2025にフランスで刊行されたマンガの新規シリーズの56%は青年向け(16歳以上対象)。児童向けの新規シリーズで図書館に入れられるものは全体の3%しかない。しかし、図書館利用者は子どものほうが圧倒的に多い。需要と供給にギャップがある。
・司書からの需要
図書館司書へのマンガの基本知識を教える研修が求められている。たいていの図書館にマンガにくわしい職員は1人しかいない。ほかは知識ゼロ。研修を希望している図書館が20館中6つ。
フランスでは月にマンガが45冊も新刊が出る。ニュースメディア、本の分類や整理を支援する媒体が必要。だからそのための専門誌を作っている。
また公共図書館は学習要素があり、歴史や多様性などを教えるタイトルを求めているが、マンガではそういうものはまったく足りていない。
・選書プロセス
詳細は不明。
ただ、アングレームの図書館では、地元の書店員が事前にえらんだ新刊リストからティーンが話し合って読みたいマンガを選ぶ。選ばれたタイトルにはそのことがわかるシールを貼って書架に置く。
また、パリでは図書館内に新規に始まった15シリーズの第1巻を用意し、ティーンが実際に読んで評価シートに記入して投票。半年ごとにもっとも評価の高かった作品を図書館が購入する。
・取り組み
複数の図書館でマンガのアワードをやっている。全国170の学校が参加する全国的なものや、パリの57の図書館のうち34館が参加している賞などがある。
図書館のイベントとしては
定例会。マンガカフェ…マンガ読者とのおやつタイム
コミックをテーマにしたイベント
マンガクラブ(マンガ読者同士の交流会)
描き方ワークショップ
日本語の入門講座
などがある。
■スペイン
発表者は主に日本マンガを翻訳しているダルマ社のメンバー。
・マンガ翻訳者・コンサルタント マルク・ベルナベ
・マンガ翻訳者、コーディネーター ベロ・カラフェル
・日本文化・ポップカルチャーコンサルタント オリオル・エストラーダ(現地図書館における日本マンガの活動の支援もしている)
・マンガ翻訳者、コーディネーター フェラン・カノ
の4名。
スペインの出版産業は不透明で、マンガ発行部数の公的なデータは存在しない。関係者からのヒアリングに基づく推測では、マンガの初版部数は2000~5000部。一部トップ作品は1巻あたり数万部。ベストセラー書籍トップ100のうち20冊が日本マンガ。スペインのコミック市場の約6割はマンガが占め、翻訳される言語として英語に次いで日本語が2番目と推定。
・スペインの図書館制度とマンガ
スペインでは図書館に対する国レベルの統括機関がない。全国17の自治州で管理運営されているが、決まったかたちがない。同じ自治州でも県ごとに違う。自治州ごとに人口も読書文化の成熟度も異なり、マンガに対するスタンスも地域差が激しい。
コミック文化が定着しているのはカタルーニャ州、とりわけ州都バルセロナ。なぜならコミック産業の大部分がカタルーニャ州に拠点を置いているから。南ヨーロッパで最大規模を誇るマンガイベント2つはバルセロナで行われている(コミックバルセロナとマンガバルセロナ)。一般の公共図書館ではマンガが全体の蔵書に占める割合は4~5%。ただ、図書館統計でマンガを独立したカテゴリに分類していない場合もあり、これもあくまで推計。
バルセロナのコミック専門図書館カン・ファブラではコミック全体に占めるマンガの割合は16%。しかし貸出回数はカン・ファブラではマンガが全体の45%を占め、蔵書の割合に比して貸出が多い。
マドリッドではマンガは蔵書全体の0.79%だが、貸出全体の1.71%を占める。
『NARUTO』はある年にある図書館で月300回貸し出されたが、もっとも人気のある小説でも月最高30回だった。人気マンガは貸出数でベストセラー小説を上回り、とくに若年層で高い貸出比率。
・図書館における読者層
図書館全体では成人利用者が多数で、若年層は2~3割。
一方、マンガの読者層は、小規模な一般図書館では児童や青少年(小学校高学年から中学校)。大人はあまり近づかない。コミック専門図書館では幅広い利用者がおり、近年、青年および大人のマンガ読者がわずかに増えている。
ジャンルでは少年漫画が圧倒的。次が青年漫画で浦沢直樹や手塚治虫など、『ダーウィン事変』などの近作も。少女漫画、女性向けは比較的少ない。BL系、子ども向けは点数も発行部数も少ない。図書館としては子ども向けマンガが重要だが、全然出ていない。
・図書館の主な課題
スペインの図書館は「アーカイブ」という発想ではなく「サービス」として運用。蔵書の総量を増やさないことを原則としているため、何か入れたらその分を除籍する。マンガはスペースを食うため、長いシリーズは置きづらい。
ただ、カタルーニャでは州内の相互貸借もある。利用者が最寄りの図書館で貸出申請すれば7~10日で受け取ることができる。
予算規模は図書館ごとに異なる。たいていの場合マンガは独立した予算ではなく、ほかの書籍と予算を共有している。
蔵書管理、書籍のおすすめ、対象年齢別の分類の専門知識の充実、職員研修が必要。
また、利用者を対象とした講演会や読書会、関連イベントをやると明らかに貸出数が増加する。この点を図書館業界、関連団体、行政にアナウンスしていくことが必要。
・選書のプロセス
読者と対話し、需要に合わせるのが基本。見込める貸出数と司書の好み・知識、賞や批評家の評価で決まる。
情報入手手段は出版社のサイトやSNS。また、カタルーニャでは図書館同士で司書のためにグループを作ってニュースレターを配信し、セミナーをやって専門家や出版社の代表を招いている。
■感想
正直、配付資料を見るかぎり、たいていの日本の公共図書館、学校図書館よりも全資料に占めるマンガの割合が高いと思われる図書館が少なくない。
また、図書館発のマンガ関連イベントやアワードも司書向け研修も、フランスやスペインのほうが日本よりあきらかにさかんである。たぶん「マンガ大国」日本における図書館でのマンガの扱いのささやかさを知ったら、海の向こうのライブラリアンはおどろくと思う。
両国で(そしてアメリカでも)「ティーン向けではなく、その下の世代向けのマンガがほしい」「学習要素があるマンガがほしい」と語られているのに、ポケモンやスプラトゥーン等々以外のマンガはなかなか供給される気配がない。小学館や学習マンガを刊行している児童書版元各社にはぜひともがんばってもらいたい。
・参考
■告知
2月19日に愛知県瀬戸市の本・ひとしずくさんで「本と地域」をテーマに、国内外の事例をあれこれ紹介します。本屋や図書館にかぎらず、本に関わる何かをやっている方、やりたいと思っている方の刺激になる話をしたいと思っています。チラシ記載のアドレスからお申し込みください。ドタ参も歓迎です。またその日、瀬戸にお昼には入り、夜は宿泊しますので、違う話をしたいぞという方は終わったあとなり始まる前なりお声がけください。

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三省堂史2回目です。全然いまのイメージと違う三省堂の姿があります。
来週、滋賀~愛知に出張するのですが、息子の学校でインフルエンザが流行ってきていて絶対移らないようにしないといけないので戦々恐々としています
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