vol.15 人生(1)

毎週気になった出版・コンテンツ業界関連ニュースに加えて毎月第1週目はエッセイ(パーソナルなこと)、第2週目は過去原稿の再録(or書き下ろし)、第3週目は最近の寄稿まとめ、第4週目は気になる新刊リスト、第5週目はフリー、ということで今回は連続エッセイの初回です。
飯田一史 ichishi iida 2021.06.05
誰でも

けんごはすごい。ただ検索してみても、ほかにけんごクラスで影響力ある書評系TikTokerいなくないですかね……

90年代に大ブーム…! 660万部超のゲキ売れ作家「はやみねかおる」魅力の一部始終

94年生まれの三宅香帆さんが「私たち世代の共通言語」と言っているのにタイトルが「90年代に大ブーム」になっているところにはやみね先生の人気の長さがうかがえます。子どもの本の歴史的にもミステリー史的にも重要。

【2021年版】高校生がハマっているマンガランキング

「読んでいるマンガ雑誌」を聞いて「使っているマンガアプリ」を聞かないのなんでだ? と思ったのですが、ピッコマが1位になるとLINEリサーチ的に困るからでしょうか。

イーブック、LINEマンガ運営会社と業務提携

メディアドゥが年初来安値、イーブックとLINEマンガ運営会社の提携で思惑売り

バックエンド共通化はでかいですね。コンテンツ調達もそのうち一本化するのかな。

TABLOがアマゾンスタジオと契約、米国ドラマ「ネオンマシン」の製作者に変身(韓国語)

ジャスティン・ビーバーやアリアナ・グランデのプロデューサーと共に米ドラマ「Neon Machin」の制作に参加。韓国ヒップホップグループEpicHighのTABLOさん、スタンフォードの英文学部卒で短編小説も高く評価されてる異才なので楽しみですね(日本ではセカオワとの交流でも知られる)。

【プロの眼】ゲームビジネスのプロ 佐藤翔第3回ゲームに見るお国柄 整い半ば規制と振興

イスラーム圏で暴力表現に対する規制が意外と厳しくない、というのが興味深かった。

「メフィスト」は、書店やネット書店で購入できる「雑誌」という形から、新たに立ち上げる読書クラブ、Mephisto Readers Club〈メフィストリーダーズクラブ〉の会員の方にお届けする会報誌へとリニューアルします

定期的にお金払ってもらうモデルなら「雑誌」じゃなくてコミュニティ、サロンでいいだろう、ということですかね。

令和の部活事情「帰宅部が1番人気って本当?」「部活でサッカーやるのはカッコ悪い」イマドキ中学生の本音

部活が不人気になってるのって10年前と比べても部活の時間が長くなっているのもあると思います。出版業界・コンテンツ業界的には部活の時間の長時間化は敵みたいなものなので是正されてほしいし、帰宅部でよいという風潮がもっと強まってほしい。

変わるイギリスの読書事情 オーディオブックの人気が急上昇

日本だとオーディオブックが高すぎる。それがクリアできればなあと。日常的に本読んでないひと、高校以上の年齢だと全体の半分くらいいますから、そこにリーチできる可能性があると考えれば潜在マーケットは大きい。

一日も休まず書けば、必ず結果がついてくる|望月麻衣 インタビュー

『京都寺町三条のホームズ』の望月さんの発言、歴史的証言としての興味深さと日本のジェンダー問題(性別役割分業意識の強さ)について考えさせられる面がありました。

望月:投稿サイトで最初に始めたのは「魔法のiらんど」さんだったんですが、「エブリスタ」さんが立ち上がったことで、最初は両方やっていたんですが、求められる読者層や内容が幅広い「エブリスタ」さんの方へ移行していきました。
望月:夫がもともと京都ということもありましたが、2013年に京都に住み始めて、その年に「電子書籍大賞」をいただいて夏にデビューしました。周りの人たちからは京都パワーって言われました。その後「エブリスタ」の編集者さんに「これからはきっとご当地ものが来るから京都を書くといいと思うよ」とアドバイスしてもらえたんです。
望月:その頃から今までまったく変わっていないんですけど、朝掃除洗濯などの家事をして当時は子供を幼稚園のバスに乗せたりする時間が終わるのが9時半で、子供が帰ってくるのが14時ぐらい。その間の時間にこっそり書いていたんです。
望月:うちは趣味の段階では、それに熱中して家事とかができないとダメだけど、あとは好きにしたらいいというスタンスでした。デビューできてよかったね、という感じだったけど、協力的になったのはアニメ化が決まってからですね。それまでは出版していてもそのうち終わるだろうと思ってたみたいですね。
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essay

newsletterを始めたときからやりたいと思っていたことのひとつが、自分のパーソナルな部分について書くこと。ふだん発信する場がないし、機会もない。でもただ記事や本を通じて「情報」や「見方」を届ける以外の回路も欲しいし、それにふさわしいのがnewsletterなのではと佐々木康裕『D2C  「世界観」と「テクノロジー」で勝つブランド戦略』を読んで以来思ってきた。

ライターでなくてもたぶん、ふだん仕事をしていて「自分がどんな人間なのか」「どんな来歴なのか」「なんでいまその仕事をしているのか」を誰かに語る機会は少ない。友達には言うかもしれないけれど、言わなくても付き合いはできる。ただそこが一部の人にでいいから伝わってほしいという気持ちもある。

じゃあ何から書こうかと考えたときに思い出したのが、3、4年前にドラマ『ブレイキングバッド』を観始めたころに少しだけ書いていたものだった。

『ブレイキングバッド』では主人公の高校の化学教師ウォルターは、子どもができたばかりなのに末期ガンを宣告され、家族のためにドラッグの生成・売買に手を染める。僕もまだ小さい子どもがいる(今年5歳、当時1歳か2歳)こともあって、ウォルターの置かれた状況に胸をうたれた。シリーズが進むと単純に「家族のため」ではないウォルターの狂気が明らかになってきて僕はついていけなくなるのだが、それはさておき。いつ死ぬかなんてわからないし、子どもに対して父親がどんな人間だったのかとか、どういう環境で育ったのかとか、自分が経験した当時の文化状況とかを遺しておきたいと思った。

それを加筆修正するかたちで、月1回だけみなさんにもお伝えできればいいのかな、と。

みなさんもご自身の人生の振り返りなりに使っていただければ。

生まれてから保育園・幼稚園時代まで

生まれたのは1982年、青森県むつ市。むつ市の人口は5万人くらい。

父親は高卒で信用組合勤務、母親は短大卒で市長の事務所で事務のパート。父方の祖父母は惣菜やお菓子、飲み物など食べものを中心に売る個人商店経営と畑や海で自給、母方の祖父は畳屋。自分の小学校低学年までがバブル期にあたるはずなのだが、個人的には恩恵を受けていたんだなとあとから思えるような記憶がまったくない。ただ金利5%だかを謳った「スーパーMMC」というものがあったことはなぜか覚えている。

全然文化的な環境ではなくて、親族・親戚に本や映画、音楽が特別好きでたくさん持っている、みたいな人はいなかった。

生まれてから最初の記憶は、ゆりかごかベビーベッドに寝ながら、上でくるくる回るおもちゃが回ってた、という視覚と音。その次は家族でクルマでサファリパークに行って、車の窓のすぐそばにライオンがいてこわい、と思ったこと。あとは、父が怒って(酔っ払って?)、雪の上にぶん投げられたこと。だから、恐怖がわりと原初的な記憶としてある。生きものとしては自然なことだなと思う。

その次は保育園に通ってたときに、家の近くに水たまりがあって、そこでプラスチックでできたアナログカメラのフィルムケースに泥水を入れてコーヒーごっこをしていたこと。母親がコーヒー好きだった(といっても豆や煎れ方に凝っていたわけではない)から、その影響なのか、甘いコーヒー牛乳が好きだったからか。まわりに誰かいた気もするから、おままごとだったのかもしれない。

保育園で『キャプテン翼』のアニメを観ながら母の迎えを待っていた記憶もある。アニメのオープニングに出てくる優勝トロフィーがやたらリアルで違和感があった(こわかった)。

最初は保育園に通い、そのあと幼稚園に行った。絵本を読んだり、ブロックで遊んだり、お絵かきしたり、体育館でサッカーボールで遊ぶのが好きだった。ひとりで遊ぶ方が好きだった気がする。ある女の子が好きでちょっかいを出していたけど、向こうはなんとも思っていなかったと思う。

幼稚園から帰ると、家の中を走り回ったり、チラシの裏にお絵かきして怪獣が出てくるお話を作ったり、教育テレビ(今のEテレ)を観たり、ファミコン(TVゲーム)をやったりしていた。ファミコンは畳屋をやっている家の従妹の家で『スーパーマリオブラザーズ』をやったのが最初。自分がいつ買ってもらったのかは覚えていない。

保育園のときは自分と父母3人でアパート暮らしだったが、5歳下の弟が生まれる前後に、むつ市の外れの方にある父の実家に引っ越し、祖父母と一緒に6人暮らしになった。

どのくらい田舎かというと、小学校に入ったら同じ学年の人間が7人だった。一番多い学年でもたしか12,3人。通っていた幼稚園は市の中心部にあって、そっちのほうが一学年あたりの人数がはるかに多かった(たぶん普通に2、30人はいたんじゃないかな)。

祖父母の家は今考えるとボロかったが、まわりも似たようなものだったから、当時、自分の家が貧乏だと思ったことはない。

ただゲームソフトは年に1、2本しか買えなかったし、おもちゃや絵本がたくさんあった記憶はない。最初に買ったマンガは幼稚園のときに買ってもらった「コロコロコミック」。ビックリマンのマンガが載っていた。当時好きだったのは『あまいぞ!男吾』と『魔界ゾンべえ』『超人キンタマン』。絵本は『まんが日本昔話』のシリーズが何冊か家にあって、それを繰り返し読んでいた。でもお話の筋を覚えているものがほとんどない。僕は今でもフィクションのストーリーを長いあいだ記憶しているのが苦手で、流れや細部をすぐに忘れてしまう。脳のなかでも短期記憶を司る部位はまあまあがんばってくれるが、エピソード記憶関連はポンコツなんだと思う。つまり時間の流れを空間的に把握して整理するのが不得手で、瞬間瞬間しか生きていない(この話はすると長くなるのでこれ以上深入りしない)。

小学校に入る前から文字をひらがなカタカナの読み書きできたことは間違いないが、どうやって覚えたのか記憶にない。親や祖父母に読み聞かせしてもらった記憶もない。保育園や幼稚園ではさすがに読み聞かせの時間はあったのだろうし、そこで文字も習ったのだろうけど、印象に残っているものがひとつもない。「本はひとりで読むもの」というイメージがある。田舎だったから、私設の文庫も公共図書館も身近になかった。だから自分が親になってから「読み聞かせするのが当たり前」「子どもにたくさん本を」みたいな世の中になっていて驚いた(それが『いま、子どもの本が売れる理由』を書いた動機のひとつでもある)。

ただ海や山はすぐ近くにあって、浜で磁石を使った砂鉄取りに熱中したりしていた。でも運動は苦手。手先も器用じゃなかった。虫取りも苦手。子供の遊びはかなりの割合が体を動かすものだから、負けたりできなかったりすると、やりたくなくなってくる。小学校に入るとみんなで遊ぶようになったけど、鬼ごっこやドッジボールは苦痛で、ひとりで遊ぶ時間も好きだった。

小学校時代は、転校する前と後で大きく変わった。思春期の前と入り口にも重なっている。その話はまた、来月に。

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outro

書いてみました。newsletterの購読者数を増やしたいならコンセプトやジャンルを決めてそれだけ書いていくのが一番いいと思うんですが、そうじゃないこともやっていきたく。

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