気になる新刊(202102末)

毎月月末になると記事の企画のネタ出しをするのですが、その際、気になる新刊のリストアップをしています。せっかくなので(?)newsletter読者の皆さんにも共有してみたいと思います。
飯田一史 ichishi iida 2021.02.27
誰でも

Amazonレビューが2875も付いたKDP小説『私の息子が異世界転生したっぽい』とは?

高校時代の同級生が突然訪ねてきた。「私の息子が異世界転生したっぽい」。数か月前に事故で命を落とした息子の本棚にあった異世界転生モノのラノベを読み漁った彼女は、もう一度息子に会うために転生方法を探せという。強引な彼女に付き合う形で、転生方法を探し始めるが…

バズってますね。『魔女の旅々』に続くKDP発のヒットラノベになるかも。

ポスト住野よる!? ネット小説大賞受賞&書影がバズった『死にたがりな少女の自殺を邪魔して、遊びにつれていく話。』が描く“重たい青春”

第8回ネット小説大賞の受賞作かつ、小説投稿サイト「小説家になろう」の恋愛部門において、月間1位を獲得した星火燎原(せいか・りょうげん)による恋愛小説です。死神と取り引きをし、寿命が3年になる代わりに時間を24時間巻き戻せる時計を手に入れた相葉純は、その時計の力で、自殺願望の強い少女・一之瀬月美の自殺を邪魔することになる。時間を巻き戻し、一之瀬の自殺を邪魔し続けるうち、二人の関係は徐々に変化していき……。閉塞した日常と、生きづらい日々を少しずつ変化させる、小さな恋の物語。

これ、売れる気がします。市川拓司―住野よるラインの叙情的なウェブ小説と同じ匂いがします。

実話文学/私小説@ネット出身者の前線

ドラマ化で話題、『死にたい夜にかぎって』のその後を描いた待望のエッセイ。手痛い失恋、家族との確執、そして自らに起きた性の揺らぎを抱えながら、人生の暗黒期を過ごしていた著者。孤独の中から救い出してくれたのは、パチンコ中毒のお坊さんと、「トリケラ」という源氏名のオカマバー店員だった。誰が一番エロい仏像を見つけられるか競争したり、連絡が取れなくなった知人のLINEに天丼のスタンプを100個送ったり、知らない子どもの剣道の試合で号泣したりしながら、辛い過去を笑い話に変えていく日々。『死にたい夜にかぎって』から1年。人生のどん底を「なんとなく」乗り越え、夢を叶えるまでを描いた実話。

いま「ウェブ小説書籍化クロニクル」を連載していることもあってウェブの文字ものの書籍化の歴史がおおよそ頭の中にあるんですが、爪切男氏のエッセイ含めたびたび「実話」(と称する物語)ものって人気になるんですよね。一般文芸ではおおよそ私小説、モデル小説は衰退の一途ですが、ウェブは話者と読者の距離の近さや、話者の素人感もあってか今も生み出されているのが興味深いなと。コミックエッセイもそうですが自分を「キャラ化」した演出があるのがかつてのモデル小説と比べて顕著な気がしています。

YouTuberが本を出すと「生きづらさ」や自分語りをする構造的な背景

小学校時代からの不登校、高校中退、華やかなモデルの世界から一転してのフリーター生活……とにかく「不適合」だった彼女が、さまざまな挫折や悩みを経験し、やっと「自分の居場所」であるYouTuberの道にたどり着く……。本書ではそんな経験をもとに、「仕事」「自己実現」そして「人生」というテーマについて、「生きづらい自分のままでも最高に幸せになれるルール」を紹介します。さらに特別枠として、実際にSNSで募集したフォロワーのお悩み相談コーナーも。現代女性が抱えるリアルな悩みに、みきぽんがまっすぐ応えます。生きるのがとことんヘタだっていい、そんな自分だからこそ掴めるものが絶対にあるから……。肩の力が抜けると同時に、内側から確かな強さが湧いてくる1冊です。

YouTuber/インフルエンサー本は自伝が多い。これには「ふだんのノリとの落差で好感度アップ」「読者が感じているキャリア教育への不満の反映(身近な存在からの等身大の意見が欲しい)」「不登校と通信制高校の生徒数増加とパラレルな『普通科→大学進学→就職』というキャリアパスへの違和感」等々が絡んでいると思っています。

アバンティーズの影

地元で出会った友達と動画を撮り始めた。東京に出てYouTubeでスターになった。今はその一人が天国で見守ってくれている。2021年7月に結成10周年を迎えるYouTuber、アバンティーズが歩んだ道のりを記録した一冊。メンバーのそら、ツリメ、リクヲに加え、エイジの家族や彼らと親交の深いすしらーめん《りく》、クリエイティブディレクターの鈴木健太へのインタビューも収録

YouTuber本を読むと重い過去を背負っている人は少なくない。けれど、活動中にメンバーが事故で逝去した人気YouTuberはアバンティーズくらいではないでしょうか。どう受けとめたのか、気になるところです。

小学生女子に人気爆発『【ハピかわ】 かわいいのルール』とは?

★すてき女子になりたい! ★もっと可愛くなりたい! そんな女の子のための、「内面から」すてきになれる、可愛くなれる本ができました! 大人や友達との話し方やマナー、学校での立ち居ふるまい、友達関係や家族関係を楽しくスムーズに築く方法などを、双葉陽先生の可愛いマンガ&イラストで紹介。上手な気持ちの伝え方、自分のカラダとの向き合い方など、人には聞けないお悩みもまるっと解決できる一冊です。

「かわいい」+「子ども向け実用・自己啓」という軸で人気の本。取材したいですね。

長い話は読みたくない? 54字の物語、100文字SF、140字完結Twitter小説…高まる超短編小説人気

最近SNSでシェアしやすいショートショートや短編が人気に。YOASOBIの原作小説も短編投稿サイト発だし、「タグでまとめられる企画性」+「超短文」ものがうけているのかなと。

「親友」の変遷 世代によって変わっていく友人観

「親友」とは何でも相談できる身近な存在か、それとも複雑で不安定な友人関係の中で理想化された幻想なのか。新聞記事に表れた「親友」分析を通じて、「友人関係」に向けられた社会の目線を読み解く

猥談やジャンプまで参戦 「5分で○○」本の世界

人気漫画家のカバー絵で『5分で読める恐怖のラストの物語』『5分で読める胸キュンなラストの物語』とともに3冊同時刊行されるうちの1冊。どの1冊からも、どの作品からも読める、全編読切小説。予測不能なあっと驚くラストの物語を多数収録の『驚愕』編! カバー絵は、『このマンガがすごい!2021』(宝島社)オトコ編1位に輝き、TVアニメ化も決定した『チェンソーマン』の藤本タツキ先生! 収録作家は、アサウラ、伊瀬ネキセ、兎月竜之介、河鍋鹿島、北國ばらっど、砂握、東座莉一、羊山十一郎、持崎湯葉、るーすぼーい。ジャンプノベルの誇る若き書き手が集結!
私が主人公だったかもしれない性愛にまつわる誰かの体験談。短篇映画650万回再生、投稿数1万件超の大人気企画書籍化。できれば共感したくなかった、5分で切ないショートストーリー。

学研の『5分後に意外な結末』以降、「○分で××」ものが定番化しましたが、来るところまで来たなと。猥談ものはさすがに完全に大人向けなので。

ウェブ発・女子の猥談ものつながり

女性の猥談もの。こちらはマンガですね。

カズオイシグロの新刊は石黒浩的ロボットの世界?

ノーベル文学賞 受賞第一作カズオ・イシグロ最新作、2021年3月2日(火)世界同時発売! AIロボットと少女との友情を描く感動作。

ロボット研究者の石黒浩氏はカズオイシグロ好きなんですが、今度は逆か? という設定なので両者を比較しながら読みたいですね。

オタクやギャルはどう変わったのか?

マーケッターが書いたZ世代本はいくつかありますが、社会学的な定量調査に基づいた2010年代以降のオタク論、ギャル論を収録。学術的にはどんなことが言えて、どんなことは言えないのか、知りたいところです。

遺伝子から社会を語っても優生学にならないのか?

個人の遺伝子属性と社会的行動との関連を分析。日本の社会学がバイオフォビアを克服する上でのマイルストーンとなる画期的業績。

生まれ、遺伝子から語ることは社会科学では長らく忌避されてきた(優生学とつながる懸念から)ものの、「神経犯罪学」なども登場してきたし、客観性と倫理性を担保しながらどんな研究ができて、どんな成果があるのか、興味があります。

アニメから見える日本人の戦争観の変化とは?

『桃太郎 海の神兵』から『この世界の片隅に』まで、アニメに登場する様々な戦争。その系譜をたどり、社会との関係を問い直す。

私、その昔『サブカルチャー戦争』という共著を刊行したことがあり、サブカルチャーにおける戦争表象の変遷には関心があります。この本ではどちらかというと20世紀の戦争を扱っているようですが、それはそれで今振り返っておきたいものだと思います。

元自衛官が描く令和のリアルな戦争文学

第164回芥川賞候補作。元自衛官の新鋭作家が、日本人のいまだ知らない「戦場」のリアルを描き切った衝撃作。北海道にロシア軍が上陸、日本は第二次大戦後初の「地上戦」を経験することになった。自衛隊の3尉・安達は、自らの小隊を率い、静かに忍び寄ってくるロシア軍と対峙する。そして、ついに戦端が開かれた――。

これも戦争もの。伊藤計劃登場から干支も一回り以上したし、そういう視点からも読んでみたいなと。

アメリカの犯罪政策の変容は政治的分断によってもたらされていた!?

世界一の先進国でありながら「犯罪」のイメージが根強くつきまとうアメリカ。しかしその「犯罪大国」ぶりをつぶさに見てみると、単なる殺人や強盗といったものだけではなく、頻発する銃乱射事件や人種問題、薬物問題、不法移民など、深刻な社会問題や左右を分断する政治的イシューが絡み合ったものが少なくなく、その実態は単純・一様ではありません。また、犯罪政策をめぐる党派的対立がアメリカ社会の政治的分断の原因ともなっているなど、「犯罪」は現代アメリカの「分断」を読み解くカギにもなっています。本書は、現代アメリカの犯罪政策と深くかかわる割れ窓理論、銃規制、麻薬取り締まり、不法移民、聖域都市といったトピックを取り上げて政治学の観点から――たとえば連邦制や政党政治との関係で――論じることで、アメリカの犯罪問題のみならず、アメリカの政党政治や社会の特徴に関する理解も深まる一冊です。

モンゴルのラッパーは何を語っているのか?

「周縁」に響く怒りの韻(ライム)。知られざるモンゴルのリアル。青空と草原の遊牧民の国――それは理想化されたモンゴル像に過ぎない。都市化と開発が進み、そしてヒップホップ、ラップが深く浸透した「ヒップホップ・モンゴリア」でもある。ラップの盛況ぶりからは、口承文芸・伝統宗教との接点、社会主義による近代化によって生じたねじれ、民主化以降の西側へのコンプレックスとナショナリズム、ゲットーから放たれる格差への怒りが見えてくる。新自由主義に翻弄され「周縁」に置かれた国家のリアルをすくい取り、叫びを韻に込めるラッパーたちの息遣いを伝える異色の人類学ドキュメント。

日本と韓国が英米のポップミュージックをどう昇華・相対しているのかが日本ではよく語られますが、ほかのアジアの国ではどうなのか見ることでおそらくより日本がどうなのかもわかるんじゃないかなと。ちなみに僕、ホーミーできます。

省エネでは間に合わない! 究極の温暖化対策“気象操作”の最前線

大気中のCO2を直接回収、成層圏に微粒子を撒いて太陽光を遮る……最先端の温暖化対策は、「人類が気候を操る」レベルまで達している。世界で話題沸騰の技術の概要・効果・危険性について、日本の第一人者が解説。

気候変動対策はCO2排出量減らすだけでなくもはや大気中のものを吸収しないと間に合わないらしいですね。SFみたいな話ですけど、ちゃんと知りたいなと。

「血」は穢れの象徴か、家族のつながりを示すものか

穢れを表し、死の象徴だった「血」が、なぜ江戸時代に家族のつながりを表すようになったのか。古代から近代まで、日本人の「血」へのまなざしの変遷をたどる。

たしかに伝奇の流れを考えても半村良『石の血脈』と吾峠呼世晴『鬼滅の刃』のあいだ半世紀くらいですら相当「血」観は変わっている。

札幌国際短編映画祭特別賞受賞YouTuber

YouTube史上、最も素が読めない男・コウイチの初書籍! 本当なのか?はたまた嘘なのか? 些細な違和感と狂気を見過ごせない自分のモヤモヤした日常を、独特の皮肉とユーモアたっぷりに描く“フェイクエッセイ”誕生。「石田が消えた」「ラジオDJ高森コウイチ」など、人気動画のスピンオフ短編も収録。退屈で閉鎖的な冴えない日が妙に笑えてくる救済エッセイです!! ●コウイチ(kouichitv):1996年生まれ。北海道出身。高校1年生のときに、YouTubeチャンネル「kouichitv」を開始。メンバーは谷くん、わたこう。動画のほとんどをひとりで制作。3分以内のショートコメディが主で、謎めいたオチ、実在しそうなヤバイ人物など、皮肉の効いたシュールな世界で独特の存在感を放つ。短編映画祭にエントリーした「最悪な一日」が特別賞を受賞。無類の映画好き。

YouTuberと映画のゆくえ、気になりますね。

「酒テロ」YouTuberの快楽と危険さ

YouTube総再生4000万回超! 酒テロ系動画で話題の「酒村ゆっけ、」初のエッセイ。

前ににゃんたこについて書きましたが、

酒テロ動画、悪影響が懸念されるなあと思っています。YouTubeもパチンコ動画や過激な動画は収益化できなくなりましたが、未成年も観られる動画で飲酒欲求を喚起するようなの放置していていいんですかね。地上波で泥酔してる人間や飲むことを煽るような動画は流れないですが、YouTubeは野放し。『キャプテン翼』の新作アニメでも原作では昼間っから酒かっくらってた日向小次郎や若島津いる学校の先生、酒じゃなくなってましたからね。YouTubeでもあるていど規制したほうがむしろ酒テロ動画生き残っていけるんじゃないかなと。泥酔している人観るのは楽しい一方、未成年や依存症の人への配慮が欲しいなと個人的には思っています。ガンガン朝から酒飲んでるからね……

寡作の幻想文学作家・山尾悠子最新作

梶原一騎の真実 

超人気マンガ原作者はなぜ転落したのか。〈漢(おとこ)〉の真の人生が明らかに!? 昭和58年、梶原一騎は傷害や暴行の容疑で逮捕された。が、その背後には驚きの真実が隠されていた! 当時の取調べ担当刑事の告白など、徹底した取材で新事実が続々。警察と報道によって作られた横暴・乱暴のイメージを根底から覆す、圧巻のノンフィクション作品。謎に包まれていた「アントニオ猪木監禁事件」の詳細も。

マンガ史的に読みたいですね。

売れてるマンガ

・なろう発コミックも爆売れ異世界転生『陰の実力者になりたくて!』

・まんがタイムきらら発の4コマながらストーリーの盛り上がりが右肩上がりの異色作『まちカドまぞく』6巻

・ついに完結 よしながふみ『大奥』


***

本が原作の3月公開映画

『太陽は動かない』3/5公開

「怒り」「悪人」などで知られる吉田修一のスパイアクション小説「太陽は動かない」「森は知っている」を藤原竜也主演で映画化。

『ブレイブ 群青戦記』3/12公開

集英社「週刊ヤングジャンプ」で連載された笠原真樹原作の人気コミック「群青戦記」を、「踊る大捜査線」シリーズの本広克行監督が実写映画化。

『騙し絵の牙』3/26公開

罪の声」などで知られる作家の塩田武士が大泉洋をイメージして主人公を「あてがき」した小説を、大泉の主演で映画化。出版業界ネタ。

***

雑記・今月の振り返り

まだ3回目ですが趣向を変えてみました。どうですかね。メールやDMなどでご感想いただけるとありがたいです(あまりエゴサしないのとTwitterはリプの通知を基本的に切ってるので)。なんか購読者限定のルーム作れて交流できるらしいんですけど仕様がよくわからないので追々。

2月は花粉症が本格化して薬に慣れる(飲まないと目のかゆみと頭痛がひどい)、というか薬によって停滞した頭と身体のままならなさを受け入れるまで1か月かかりました(毎年の出来事)。来月と再来月出る本のゲラ作業に時間が吸われたことも重なり、今月は全然記事が書けませんでした。単行本が書き終わるといつも虚脱感があって腑抜けるんですが、花粉シーズンと重なったので、なかなかな生産性のなさでしたね。人生思うようにならないものですけど、ぼちぼちやっていくしかないですね。3月は気持ちを切り替えて新しい中長期仕事に取り組んでいきたいなと。みなさんはいかがでしたでしょうか。

ではまた来週。

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