スペインにおけるコミック/日本マンガ 

読書率、市場規模、ジャンル別刊行点数、単価と販売形式、読者層
飯田一史 ichishi iida 2025.03.29
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■コミックの読書率

FGEE(スペイン出版社協会連合)の)”Hábitos de Lectura y Compra de Libros en España"2023によると、スペインのコミック読書率は全体では10.5%、14~24歳で30%。性別で見ると男性14.0%、女性6.8%。デジタルコミックの読書率は3.0%。

なおFGEEは読書率は「過去3ヶ月間に読んだかどうか」で定義している。

FGEEの"Hábitos de Lectura y Compra de Libros en España 2024"によると、コミックを除いた書籍の読書率では「余暇時間に本を読む」割合は65.5%、電子書籍の読書率は29.5%、オーディオブック聴取率は7.9%。

デジタルコミック読者は電子書籍全般の読者の10分の1しかおらず、オーディオブックを聴いている人の半分以下である。

■コミック市場


FGEE”Comercio Interior del Libro en España 2023”によれば、スペインの書籍市場は2023年に売上高28.57億ユーロ(約4461億円)、うちコミック市場は6690万ユーロ(約104億円)。市場全体の2.3%にすぎない。書籍市場は微増傾向にあるが、コミック市場は前年比3.1%減。

2019年比で書籍市場全体では18%増だが、コミック市場は6.4%増で、とくに目立って成長しているセグメントではない。

スペインのコミック産業に関してはTebeoshere Cultural Association(ACYT)の年次報告書

が2019年まで出ており、これはスペインのコミック市場全体を把握するために非常に有益である(ただし長大)。

FGEEとACYTの報告書とを対照してすぐ気づくのは、コミックの刊行点数があまりにも不一致なことである。

FGEE調査では新刊タイトル数が2019年1737、2023年1926としているのだが、ACYT調査では2019年にスペインで出版された新作の商業漫画の総数は3771としている

なぜふたつの調査で刊行点数が倍以上も違うのか?

ひとつにはFGEEは書籍のみをカウントしており、ACYTは雑誌もカウントしているからだ。後者には

という表が掲載されている。しかし雑誌分を除いても2961点もあり、FGEE調査と約1000点も違う。

これ以上はACYT調査を読んでも、わからない。判型や仕様、国、小売店(専門店でしか流通していないものは除外されている、など)でカウントのしかたが違う可能性もあるが、どれを取ってもFGEE調査に近似しない。

2019年時点で商業漫画を継続的に発行しているのは107社、うちもっとも多くのタイトルを発行した出版社は

  • Norma Editorial(754点)

  • ECC Ediciones(452点)

  • Planeta Cómic(374点)

  • Panini Cómics(283点)

  • Ivrea(228点)

である。この5社で市場の約63%を占め、この5社だけで約1800点ある。

FGEE調査は調査対象が「スペインの出版社連盟に加盟する民間出版社885社」だから、小規模コミック出版社はこの連盟に加入していないのかもしれない(ただし「スペインの出版業界の約90%をカバー」と報告書にあるから、この解釈もあやしいところだが)。

■ジャンル別刊行点数 スーパーヒーロー3割、冒険3割

ACYT調査ではジャンル別の分類も出している。分け方は以下である。

  • スーパーヒーロー: このサブジャンルの作品のみで、子供向け、パロディ、ドラマティックなテーマのコミックは除外。

  • 冒険: アクションですが、ストーリーにスーパーヒーローが登場せず、子供向けではない

  • ドラマ: 日常的なものから悲劇的なものまで、ヒーロー的でないテーマで、大人向け

  • ユーモア: 日常的なものと風刺的なもののみで、子供向けやスーパーヒーローのパロディは除外

  • 子供向け: ユーモア、気晴らし、またはファンタジー作品で、特に子供向け

  • ロマンス: ドラマや冒険よりも感情的なものが優勢で、エロティックなものも含む

2019年に販売されたコミックのテーマ

スペインで読まれているコミックの3分の1はスーパーヒーローものだ。出版社別に見るとパニーニが2019年にこれらのコミックのほぼ半分、490タイトルを出版。ECCは351。プラネタは31。小規模出版社ではメドゥーサ70、サルバート107。スーパーヒーローコミックを最も多く制作したスペインの出版社はカルモナ・エン・ビニェタスである。

スーパーヒーローが登場しない冒険コミックもほぼ30%だが、このジャンルには日本マンガの「キャラクターが能力を持ち、アメリカのスーパーヒーローに匹敵する冒険を経験」するアクションマンガが含まれる。このジャンルではノーマ249タイトル(その多くはマンガ)、プラネタ187タイトル(「スターウォーズ」のすべてが含まれる)、パニーニ97、ECC64タイトル、イヴレア56、新興のミルキーウェイ37。

スペインの作家による作品に全力を注いだ出版社に焦点を当てると、そのほとんどは自費出版者や小規模な地元の出版社で構成される。

■スペインにおける日本マンガ市場

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