vol.7 バズることについて
intro
石田光規教授の『友人の社会史』に絡めた「友人観」の変遷に関するインタビューがとても読まれた。
なので今回はバズることについて思っている点について書いてみたい。
essay
そもそもバズることを狙って記事を書いているか?
もちろん読まれないより読まれた方がいいと思って書いている。
理由はふたつある。
ひとつは、あるていど読まれないとウェブに記事を執筆する職業ライターとして成立しないから。PV連動で報酬がもらえる媒体はまだまだ少なく、読まれても読まれなくてもいっしょの原稿料+αのアップサイドを見込んでバズを狙っているわけではない。ただ全然読まれない記事ばかり書いていると企画が通らなくなる(実際、ウェブトゥーン関連記事はPVが取れなくて企画が通らなくなった)。あるていど「この人の記事はときどき跳ねる」と思ってもらえたほうが仕事がしやすくなる。
もうひとつは、届いてほしい人、届くべき人に届く可能性が上がるから。
大学院でマーケティングのクラスで学んだもっとも基本的かつ個人的に重要だったのは「ターゲットは誰? ニーズは? 提供価値は?」を考えること。
逆に言えば、本来届けたい人たち以外にまで刺さることをムリに(むりやりに)狙っても商品価値がブレるだけで結局誰にも届かないものになるからやめろ、と叩き込まれた点だった。
日本は長い間、同質的な社会だったからBtoCビジネスでは「国民的ヒット」という概念が成立し(今でも成立しているが)、「万人にうける」ことがよしとされてきた。しかし、特定セグメントに刺さってビジネスが成立するならそれでいったい何の問題があるのか。何もない。
育った文化や収入、信仰などによって求めるものの傾向が違うことは当然である。「誰でもいいからとにかくたくさん売れる、広まる」ことを最上とする風潮は、ひとのニーズの多様性を覆い隠しやすく、本来の顧客に対して提供すべき価値をぼやけさせてしまう。
……こういう考え方はとてもしっくりきた。
大学院に通い始めた当時、僕はラノベの編集者をしていて、しばしば語られる「限られたオタク層だけでなくもっと一般向けを狙っていかないといけない」という発言にずっと違和感があった。「一般向け」と言われている一般文芸の本のほうがよほどラノベより売れていないものが多いのに、なぜ一般向けのほうがえらいという風潮なのか。なぜ対象読者が狭いとだめなのか、「狭い」と言っても売れたらシリーズ累計数十万~数百万部いく作品だってざらにあるのに、それで「狭い」と言うのは言いがかりじゃないか? と思っていた。
だから「ターゲットは『広げる』ことよりはるかに『絞る』方が重要」という考えは「そうだよね」と思った。1億人くらい人口がいる国なら100万人に届いても1%。100人に1人、1000人に1人届けば十分すぎるくらい十分。ありもしない「一般向け」とかいう言い方はまったくの欺瞞でしかなく、「一般」と称されているときに暗黙のうちに指し示されているまた別の“特定の集団”を意識する必要なんかない。
まえふりが長くなったが話を戻すと、こういう考えだから、記事を書くときも基本的には「特定の誰か」に向けて書いている。想定読者に刺されば十分で(というかそれが目的であって)、そうでない人たちにまで広まって騒がれてもとくに何も思わない。「ふーん」で終わり。有名になりたいとか注目されたいということは、自分にとっての根本的な内的動機ではない。
こうしてnewsletterで限られた人に向けて書いているときのほうがしっくりくる。
もっと言えば、本質的な動機は「書いて広める」ことよりも「謎の解明」「真理の探究」にある。もっとも満足が得られる瞬間は、設定した問いに対して自分のなかで納得のいく道筋を原稿のなかで立てられて原稿が完成したときであって、そのあと誰か「届いた」と感じられたときではない(比較すれば、の話であって、反響や感想がもらえたときはそれはそれで嬉しいけれど)。
じゃあ儲かっても嬉しくないのか? ということについては、またいずれ。
長くなったので、今日はこのへんで。
気になるコンテンツ産業関連ニュース
おしりたんてい実写化!?
これまでも舞台やショーをやっていたものの、そう来るか、と。アニメの流れで東映が実写作品をつくるなら(まだそうだと発表されていない)ノウハウも活かせるし、全然あり。おしりたんていについて書いた過去記事は以下。
KADOKAWA株式取得を通して見るKAKAOの海外戦略
NAVERウェブトゥーン、グローバルサービス「Tappytoon」運営会社に25%投資
グローバルコミック市場で日本発のプラットフォームが覇権を取ることはもう難しく、ニッチを取るおよび作品単位でのヒットを目指すしかないんだろうなと思う(それ自体は悪いこと徒は思わない)。
メディアドゥ、日本文芸社の株式取得
出版取次トーハン、電子書籍大手メディアドゥと資本提携
「売る側」が「作る側」にも手を伸ばすのはCCCやアムタス(めちゃこみ)もそうだけれど、それにしても隔世の感がある。
「バイラルチャート」に見る、リスナー主体のヒットの生まれ方
"Spotify Japan コンテンツ統括責任者の芦澤紀子によると、すべてシステムがデータ解析に基づいて算出しているというバイラルチャートで参照されるのは、「Spotifyサービス内で直近の再生回数がどれだけ上昇したか」「TwitterやInstagramなどのSNSに楽曲がどれだけシェアされたか」「どれだけその曲が新しく発見されたか」という3つの要素だという。ここで注意すべきポイントは、YouTubeやTikTokなど、外部のサービスにおける再生回数や、そこからリンクを辿った流入が直接的にカウントされているわけではない、ということだ。"
そうだったのか。
"今の時代の「バイラル」という言葉には、2つの意味が重なり合っていることがわかる。1つは「口コミによって話題が広がっていく」という従来の意味。そしてもう1つは「アルゴリズムによって駆動された、(いつどこでバズるものが出現するか予測できない)カオス現象的な話題の拡散」という意味だ。"
ウェブ小説もこういうしくみ作れるといいですね。
表現の現場ハラスメント白書 2021
先日放映されたNHKの『プロフェッショナル』の庵野秀明監督回を観たんですが、パワハラ被害経験者としては「あっ、この人とは仕事できないわ」と僕は思いました。フラッシュバックして嘔吐感が……。作り方が昭和。ああいうやりかたは決して持ち上げられるべきことではない。
社会不適合者がクリエイターになるような観念がありますが、せめてフリーランス含めてハラスメントに対する研修(受注側がされたらどうするか、発注側が何がハラスメントかを学ぶ)の機会が無料で広く提供されるとか制度が整備されていけば、仕事として関わる部分でやっていいことといけないことの線引きが少しずつでも業界的・社会的に共有されていく気がします。
任天堂と米ナイアンティック、スマホ向けアプリ開発で業務提携
第1弾は歩くことが楽しい「ピクミン」のアプリ、今年後半投入へ。
ピクミン、めっちゃARに向いてるので「おお!」と。息子がピクミン好きなのでいっしょにやりたい。
outro
家族で花見に行きます。
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