韓国とインドの文化の浸透・拡散を「環流」として捉える

韓国ウェブトゥーンの日本展開、『SweetHome』、Netflix、インド/南アジア文化の広がりとスピリチュアルマーケットの類似性などについてお届けします。花粉症がしんどい
飯田一史 ichishi iida
2021.02.20
誰でも

花粉症がつらくて薬を飲んでいるのにその薬の副作用で頭が回らんという、自分にとっては地獄の3ヶ月がこのシーズン。ボロボロです。作業効率30%ダウンのなか今週も出版×ネット、コンテンツ産業関連ネタを中心に。

最近(2020年10月~)のお仕事

LINEマンガを抜き売上日本No.1になったピッコマで2020年最も読まれた作品から見えるもの

2020年夏、カカオジャパンが運営するピッコマが日本のApp Store、Google Play内のマンガアプリの売上でトップに立ちましたが、その中で一番読まれた作品はウェブトゥーンの『俺だけレベルアップな件』なんですよね。でもこの作品を取り上げたメディアがどれほどあるかと。

なかなか「部数」をベースにした思考からメディアは変わっていかないけれども現実では「部数」で測れない世界も進行している。

あとここには書かなかったけれども、ピッコマは自前で出版社をひとつずつ回って作品調達している。一方、LINEマンガはメディアドゥ経由で版元からストアで配信する作品を調達しています。

ここからもLINEマンガがなぜ自社オリジナルに力を入れるかが見えてきます。

オリジナルじゃないほうは売上のわりに実入りが少ないからです(メディアドゥに手数料を払わないといけないから)。ピッコマは直取引なので実入りが良く、むりやり自社(親会社含む)のカカオ・ダウム作品を推さなくてもいい。ということなんじゃないかなと。

Netflixで2200万人が観たゾンビ物『Sweet Home』は韓国版『アイアムアヒーロー』!?

『Sweet Home』はLINEマンガで読める韓国ウェブトゥーンを原作にしていて、ドラマ版では登場人物が読んでいるコミックスが作者の前作『バスタード』という小ネタがあったりします。

僕は昔から韓ドラのラブコメや歴史ものを観るのが好きだったのですが(最近全然時間がなくて観られていないですが……)、『愛の不時着』以降の盛り上がりにはけっこう驚きました。ちょっと前まで日本での受容は、K-POPは若年層、韓ドラは中高年層とマーケットが分かれていたのが若い人も観るようになったので。

『SweetHome』は明らかに原作ファンとドラマの監督や脚本家のファン層はもともとは重なっていないタイプの作品なんですよね。

この作品は違いますが、韓国はウェブ小説原作のウェブトゥーン→映画・ドラマで世界展開することも多いのでそのあたりの動きもいずれ紹介します。

Netflixはなぜ圧倒的な成功を収めたのか? 「結果がすべて」の冷徹な人事戦略

韓ドラと蜜月と言っていいNetflix。Netflixに関する著作は4冊翻訳がありますが、そこから見えるNetflixの姿について書いた記事です。スタッフに裁量と予算を与える代わりに結果が出ないと容赦なくさようなら。結果を出せる人には天国だろうと思いますし、エンタメの世界では「この企画、当たるのか?」と言われても誰も事前にはわからない(類書、類似企画の結果を見てもあてにならないことも多い)からこれがいいんだろうなと。

インド映画とNetflixの関係とは?

「月刊サイゾー」2021年3月号のNetflix特集でインド映画研究者・字幕翻訳者の松岡環さんにNetflixのインド展開と映画界の反応について訊いています。電子書籍ならKindleUmlimitedやdマガジンなどで読めます。日本では外資の「黒船」扱いされていますが、インド映画界では衛星放送ブームの再来のような側面があって、20年くらい前と同じような摩擦と利益が起こって調整しているという印象でした。

グローバル市場でヒットする非ボリウッド映画、ココイチの本場進出……世界を「環流」するインド文化の現在

インド文化に関しては『世界を環流する〈インド〉 グローバリゼーションのなかで変容する南アジア芸能の人類学的研究』(青弓社)の編者のひとり甲南大学文学部の松川恭子教授へのインタビューも手がけたので合わせてぜひ。インド→他の国・地域→インドという影響関係の往還を近年の文化人類学界隈では「環流」という概念で捉えています。

ようするに、外国人やインド国外に住むインド系の需要の影響を受けてインド映画や音楽が変容するだけでなく(これはいわゆるオリエンタリズム的な受容であることが多い)、その潮流がインドにもう一回入ってきて変容する、という流れをインドに限らずパキスタンやブータンなども含む南アジア文化のせめぎあいのなかで見るとどうなるか、と。

日本の映画やアニメ、マンガもこういうものとして見たらおもしろいのでは、と想像が膨らみました。

マインドフルネスやアニメ聖地巡礼は“宗教”か? 寺社も集客を狙うスピリチュアル市場のサバイバル

インド文化の「環流」から想起したのが、宗教学で言われている、宗教を広義・広域の「スピリチュアル・マーケット」として捉える、という動き。このふたつは少し似ている。

たとえばインドの宗教音楽であるキールタンはヨーガのときの瞑想音楽として北米を中心にグローバルに(もとのヒンドゥー教的な文脈が脱臭されながら)広がったんだけれども、薄まって広がったことによって、その裾野から入って狭く深いところにハマるガチな人も出てくる。

スピリチュアル市場でも、宗教色が抜かれたパワースポット観光(薄く広まった裾野)などに始まるんだけれども、由来について調べはじめて日本神話や仏教に関心を深めていく人もいる。たとえば築地本願寺は近年、簡素で安価に葬儀・墓ができる「合同墓」や敷地内にオーガニックでおしゃればカフェを設立するなどして敷居を下げながら中長期的に情報発信・就活セミナーやよろず相談などを通じて門信徒拡大を図っている。

従来、薄めて広まることは本来性からの逸脱、真正性の喪失、あるいは文化の盗用として否定的に捉えられがちだった。けれども二重構造というか、ネットマーケティングで言うファネル(じょうご)モデルみたいになっている。薄く広くキャッチーな入り口と、狭く深い宗教的な領域が分離しているようでいて、実はつながっている。薄い部分だけだと実は成立しない。深い部分があるから惹きつけることができる。

これは最初に挙げた韓国のウェブトゥーンやNetflixドラマ化とも無関係ではなくて、たとえば私の妻はLINEマンガで韓国マンガを読むのにハマって、それまでまったく興味を抱かなかった韓国スイーツ(カラフルな巨大かき氷など)やヤンチョムチキンのような韓国グルメに興味をもって、いっしょに韓国旅行に行きましたからね(コロナ禍以前)。

かくいう私も韓ドラから韓国の官僚制度や儒教受容に興味を持ったり。

K-POPも北米進出が当たり前になる以前/以後を「環流」概念で捉えると楽曲やパフォーマンスの変遷について、わりと見えるものがある気がします。

……連想ゲーム的に執筆記事紹介をつなげていったらけっこうな分量になってしまったので、今回はこのあたりで。

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それでは良い週末を。また来週土曜日朝に。

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