vol.9 4月の気になる新刊(2)ノンフィクション・学術書・宗教関連

先週は疲労で微熱が出たのでお休みしました。先々週の続きです。
飯田一史 ichishi iida 2021.04.17
誰でも
羽黒山伏・星野文紘氏のもとには、多くの経営者、起業家、新進気鋭の専門家、イノベーターなど、最前線のビジネスパーソンたちが「山伏修行」を経験するために訪れています。なぜ、経営者、起業家、イノベーターたちは、今、山伏修行をするのでしょうか? テクノロジーによって失われた身体性を取り戻し、理性・言語を超えた先の「感じる知性」を活かして生きるヒントがある

本当か? という気もしますが。

この記事で書いた「広義のスピリチュアルマーケット」で勝たないといけない先がない、勝つ(=売れる)ために姿を変えていく、という話に通じているなと(修験の話も少しだけ出てきていた)。

「考古学×イコノロジー研究」から気鋭の研究者が秘められた謎を読み解く、スリリングな最新研究書。本書では〈考古学の実証研究〉(データ)と〈美術史学のイコノロジー研究〉(図像解釈学)によってハート形土偶から縄文のビーナス、そして遮光器土偶まで名だたる国内の「土偶の真実」を明らかにする。そこには現代につながる縄文人たちの精神史が描かれていた。日本、5000年の歴史。現代人の心的ルーツを明らかにする人文書の新しい展開へ。

美術と宗教のつながりから読むのはアツい。

キリスト教・イスラム教・仏教・過激宗派など世界中の宗教現象が経済と社会に与える効果を分析する。宗教の問題に関係する多くの分野に示唆を与える1 冊。

僕もアメリカの福音派について記事を書いているんですが(一部は以下)

たしかにアメリカの経済・経営とキリスト教は切り離せないんですよ。福音派メガチャーチのマーケティングを学ぶことでMBA取れる大学があるのがアメリカなので。

あと一時期イスラーム金融に興味があって本を読みましたが、イスラームだと会計制度に喜捨が組み込まれてるんですよね。

複式簿記こそが資本主義成立に必要だったというヴェルナー・ゾンバルトの論があります。これは慧眼で、取引をいかに記述し、何を指標とするかで人間のインセンティブはまったく変わる。よくある「資本主義を脱しなければいけない」論、「資本主義の終焉」論を語る人は資本主義から制度を変えるには会計制度(とくにバランスシートのしくみ)を変えないと実務的に不可能という視点が欠けがちだと思っています……この話すると長いのでやめよう。

日本列島において、人々は二つの隣国を鏡にして、国の自画像を描いてきた。直接交渉を持った巨大な中国と、彼方に夢想した仏教の聖地・天竺である。日本・中国・天竺からなる三国世界観は、江戸時代に新しい世界認識・五大州へとその座を譲った。そして現在、仏教の聖地はインドという名で呼ばれている。果たして天竺はインドになったのか、あるいは―?

ザビエルが日本にやってきたときゴア経由だったので「天竺から来たお坊さん」と認識された(キリスト教は仏教として受容された。絵で描かれるザビエルが頭剃ってるのはイエズス会が「日本では宗教者は剃髪している」との情報を得て現地化して布教しようとした戦略ゆえ)ということが岡美穂子先生の研究などで明らかになっていますが、日本人の天竺観、気になりますね。

13世紀末にモンゴルへ伝来したキリスト教。シャマニズムや仏教の影響下で聖書はどのように翻訳され、改訂されてきたのか。現代の翻訳理論を踏まえ、モンゴル語仏典の翻訳論、日本語訳聖書の翻訳者たちの実践を交えて、多言語社会における聖書翻訳の営みを多角的に描き出す。

モンゴルヒップホップに関するインタビュー記事を作りましたが、島村一平先生の『ヒップホップモンゴリア』によるといまや福音派が人口の3%を占めているそうで、モンゴルのキリスト教動向、知りたいですね。

日本独自の宗教現象だと考えられてきた「神仏習合」。しかし、神信仰と仏教の融合はアジア各地域で広く見られる。インド・中国から北東・東南アジアまで多岐にわたる「神仏融合」の実態を解き明かし、一国史的な認識を超えて新たに日本の宗教文化を捉え直す。

「敬虔な仏教国」と評されることの多いミャンマーは実は呪術・占い大国です。

よくタイやミャンマー、チベットと比べて「日本の仏教は不純・退廃・堕落している」(ブッダ存命時の初期仏教の絶対視の裏返し)論には本当に日本だけかなと思っています。

宗教の持つ本源的な暴力性を問う タミル分離独立をめぐる内戦、ムスリムとの対立、そして2019年の同時多発テロ は、仏教聖地スリランカを根底から揺るがせた。本書は、植民地支配下に独自の改革仏教を創始したダルマパーラの思想を根源から問い直し、そこに潜む暴力性について人類学的、系譜学的に明らかにした労作である。

不殺生を説いているはずの仏教がナショナリズムと結びついて武装化するという現象、歴史的にありますが(日本でも戦時中は仏教界は軍に協力的でした)、関心があります。

実行した人にとっては最善で唯一の選択だったとしても、その死によって終結するものはごくわずかで、実際には死から始まっていくことのほうがはるかに大きい。のこされた人は、深い悲しみと終わりがない問いの前に立たされる。自死は、その人と関わりがあった周辺の人たちの人生に多大な変化を生じさせていく。「死」は、始まりである。愛する人を失った場合、その直後の苦しみは時間の経過によって変化していくのだろうか。本書は、胸底の奥深くにしまい込まれて表層に現れにくい、表現することがためらわれる深い悲しみとともに生きる人たちの軌跡を、その証言を中心にまとめる。死別による悲しみは、個人の生き方を根底から覆してしまう体験だが、社会のなかにある偏見や差別を感じながらも、どのように「きょう」を生きて死別という不条理を抱えながら「生」を紡いでいるのか――。いま/このとき、その悲しみとともに日々を送っている自死遺族の証言の記録である。

少し前にヤングケアラーについてのインタビュー記事を作りましたが、

自死の場合はどうなのか、どう受けとめているのか、知りたいですね。

たしかにいつからこんなに「役に立つ」ことが第一になったのかと思う。エジソンならともかく、アリストテレスともニュートンも「役に立つ」から研究していたとはあまり思えない。

これまでになかった、こどものための「自衛隊のりもの写真絵本」が誕生します。戦闘機、戦車、護衛艦という、陸海空自衛隊で働く「のりもの」を中心に、特徴や働き方について解説されています。「せんとうき」のパートでは、F-35、F-15、F-2、F-4に加え、ブルーインパルスなど航空自衛隊を。「せんしゃ」のパートでは、10式戦車、90式戦車、74式戦車に加え、16式機動戦闘車など陸上自衛隊を。「ごえいかん」のパートでは、「いずも」「こんごう」「あきづき」に加え、「そうりゅう」など海上自衛隊を、それぞれご紹介していきます。また、「くらべる図鑑」コーナーでは、イラストによる他の乗り物との比較など、わかりやすく自衛隊の乗り物を解説していきます。

少し前にくるまの図鑑に兵器が載ってて炎上したけど、これは正面から。よく出したな……と思ったけらイカロス出版だった。

亜紀書房のノンフィクションシリーズは『幻覚剤は役に立つのか』(下記参照)とか攻めた本を出していておもしろいですね。

月旅行から「はやぶさ2」まで、宇宙開発・宇宙旅行の最新事情が楽しみながら分かる&妄想旅で楽しめる「宇宙のガイドブック」が登場。

旅行に行けない時代に出す本としておもしろい。著者の林香代さんは以前『宇宙の歩き方』(『地球の歩き方』宇宙版)も書いていますが。るるぶは中学受験向けに役立つと言われている『るるぶ 地図でよくわかる 都道府県大百科』がロングセラーになっていますが、見せ方のノウハウがあると横展開できるんだなあと。

オリンピックや相次ぐ再開発を控え、高齢化と人手不足が著しい建設現場にいち早く導入されてきたベトナム人などの外国人技能実習生たち。安価な移民労働力の利用とする画一的理解をこえて、日米の比較から産業再編成と技能継承をめぐる課題に迫り、建設労働移民のグローバルな文脈を示す。

日米比較から技能実習生を捉えるという発想がなかったのでアメリカの政策を見ると何がわかるのか気になる。僕も過去にこういうインタビュー記事作っています。

ベトナム人実習生について書いた澤田さんの新刊の取材に協力しました。

昨年、東京から千葉に引っ越したので。「捨てた」つもりはないですが……

女武者を言い表す言葉として、我が国には古代から「女軍」(めいくさ)という言葉がある。女王・卑弥呼から女軍部隊を率いた神武天皇、怪力で男を投げ飛ばしたとされる巴御前や弓の名手・坂額御前、200人の鉄砲部隊を率いた池田せん……「いくさは男の仕事」という思い込みも、見方を変えれば覆る。

よしながふみの『大奥』を思い出しましたね。

今週の気になるコンテンツ産業関連ニュース

ウェブ小説→ウェブトゥーン→ゲーム化・映像化というサイクルが確立されて投資が太くなって国際展開していると(『月光彫刻師』はもとはウェブ小説作品で、日本ではピッコマなどでウェブトゥーンが読める)。日本企業はメディアごとに分業していますが、カカオやNAVERは自社グループで包摂・完結させる垂直統合型、かつ、海外も現地企業と協業・合弁に留まらず直接出て行くのが特徴的だなと。

ところでカカオジャパンはウェブトゥーンのことをSMARTOONと呼ぶことにしたみたいですね。

たしかにウェブで閲覧というかスマホで観ているのでスマートゥーンでもいいのかもですが、個人的には呼び慣れない。

デジタルでの児童書サブスクなど。このへんは学研、ベネッセ、小学館などが先行していますが、ポプラはポプラディアが強い(強かった)のと、おしりたんてい・ゾロリといったキャラが強いので、何か新機軸があるんだろうなと。

拙著・拙稿関係

バズりました。そんなに跳ねると思って書いてなかったので反響に戸惑いました。

現代ビジネスでは『描きたい!!を信じる』合わせで「ジャンプ」の新人育成システムについての記事も話題になりました(編集部で付けたタイトルはどうかと思う)。

こちらもぜひ合わせて(『描きたい!!を信じる』と合わせて!)お読みください。

拙著『ライトノベル・クロニクル』をタニグチリウイチさんに書評していただきました。

大先輩なので、恐縮です。

outro

先週、微熱が出る前後から(コロナではない。2日寝てたら治った)行き詰まり感が半端なかったので今週は仕事をセーブしてクールダウン期間に。が、まだまだ休み足りない!(社会人にあるまじき発言)。

3月から仕事を詰め込みすぎて息切れしてしまったので、直接関係ないインプットもして精神的に燃え尽きないように毎日の/週次のスケジュールにリラックスタイムをブロックして入れることに。

花粉症、あと2~3週間で終わりますね。早く薬なしで頭すっきりな状態に戻りたい。

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