電子書籍は「隣」に目を向ける時代に
既報の通り前年比2.1%成長となり、コロナ特需が終わって以降の展開を、各社が模索している。しかもこれは売上ベースの話だ。
費用に目を向けると、電子書籍ストア各社はプロモーションコストがかさんでいる。新規の顧客獲得コストが高くなり、大型セールを常態化しないと前年比維持が難しい状況だ。ドイツやフランスなどでは電子書籍も原則(新刊)は定価販売だと法律で決まっている。日本でも一部の事業者から、お互いの消耗戦を避けるためにはルール設定が必要ではないかと声があがっている(そうは言っても事業者同士が話し合いで足並みをそろえるとカルテルになるから、もしやるなら法律でどうにかする以外にないだろう)。
また、各社が自社サービスにだけ読者を惹きつけるべくオリジナルマンガ制作に力を入れ、最近では手堅く売上が見込めるジャンルのみならず、当たれば大きいが当てるのが難しい少年マンガ、青年マンガなどにも手を出しはじめているから、よけいに費用がかかる。
次の出口として「海外とIP」と言われてきたが、たいていの国でもコロナが終わって以降、MANGA市場は停滞している。そのうえ、東アジア以外はみんなデジタルより紙が強い。電子書籍事業者の多くは紙のノウハウ自体が弱く、まして海外販路となると開拓、舵取りが難しい。
IPも、当たるとデカいのはキャラクターグッズがよく売れるタイプのジャンルだ。コミック系の電子書籍ストアで強い女性向けのロマンスファンタジーや復讐もの、BL、TLの多くはこれに該当しない。
海外もIPも、1年や2年で突破口が開ける世界ではない。
文字ものの電子書籍は、マンガよりも先に成長の停滞に直面している。
そんな状況認識から今年度の報告書は出発している(少なくとも私は。インプレス側はまた違うと思う)。
そういうわけで、まず、せまい意味(従来の定義)での「電子書籍」だけでは見えてこない、広い意味でのデジタルパブリッシング市場の動向や数字も盛りこんだ(「デジタルコンテンツ」と呼ばないのは、デジタルコンテンツだと配信している動画や音楽等々まで含まれるため。一応、広義の出版を範囲としている)。
実際にどこまでを入れるかはインプレスが決めたが、何度かやりとりして詰めた。


電子書籍市場の数字を大きく盛るために拡大解釈したわけではない。隣接するマーケットの大きさがどれくらいなのか、どんなものがあるのか、どんなビジネスモデルや顧客が存在するのかを事業者が認識した方がいいと思ったからだ。
プロモーション、顧客獲得の手法についても、電子書籍業界で主流であるウェブ広告以外の方法についてなるべく触れるようにした。ウェブ広告が主流であること自体は今後も変わらないと思うが、しかし、ウェブ広告で獲得できる顧客層はあらかた取り尽くしてしまっている。ウェブ広告だけでは既存顧客のリテンションやパイの奪い合いに機能するけれど、ウェブ広告を見ないユーザーには届かない問題がある。
また、「IP」というくくりだと見落としてしまうサービス展開や、デジタルとフィジカルの連携・往還という国内外で起こっているトレンドにもわずかばかりだが言及している。
電子書籍の「外」とまではいかないが「隣」に目を向ければ、取りうる選択も広がると思う。
そういう話を8月31日のウェビナーではインプレス総研・柴谷さんとする、、かもしれない。
報告書はなかなかなお値段ですが関係者は必読なのでぜひお買い求めいただき、そうでない方も含めてウェビナーご視聴いただければありがたく。
「隣」に目を向ける、というのは電子書籍関係の人だけでなく、紙の本に関わる側も同じだ。
電子の世界では「プロモーションしないと誰もそもそも店(サイト、アプリ)に来ない」「宣伝と作品の両輪で売れる。宣伝なしでは中身が良くても埋もれて見てもらえない」というのが常識だ。
けれどたとえばリアル書店や図書館では、自店(自館)の宣伝をし、定期的に思い出してもらい、利用を継続してもらうことがいかに大事か、そのためにどう施策を組み合わせて設計して調整するか、という取り組みが、どれだけ行われているだろうか。そもそもそういう発想を持っているだろうか。
その話はこちらにて。
「購買」ではない「読書」の方も、隣に目を向けたら違ってくるよという話は来週8/4頃発売予定の『ゆる読書』およびその後の関連イベントにて。
■告知
9月に出るこっちの本と関係する「AIで感想文とか書いても、こういうところでバレます」という記事を書いたら、あるTV番組から宿題のAI利用についてリモート取材のオファーがすぐありました。やはり「AIの見抜き方」「見抜かれ対策」需要あると思うんですよね。
12月に宮崎に行く用事があるのですが、前乗りできそうなら熊本に行こうと思います。
そうでなくても、どこかのタイミングで。
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