私は再販や定価販売否定論者ではないんですよ
ややこしい話なのであまり興味がないかたは適当にスクロールしてください。
取材を受けたんですけれども、再販護持を主張している典型的な勢力であるはずの新聞なのに、なぜか私が再販、定価販売否定論者であるようにアングルを作られそうになっている気配を感じたので(意識しすぎだったらすみません)「違うんだけどな」と思いながら取材を受けた。できあがった原稿でも、全体の流れから再販の話が若干浮いていると思いますけども……。
私が『町の本屋はいかにしてつぶれてきたか』でもそのあとでも言っていることは、出版社に値付けを任せる現行の再販契約のしくみは、とても運用が難しいという話。定価販売自体は悪いと思っていない。
定価販売によって「書店が安売り合戦になってお互い潰し合うことがない」「安定して利幅が確保できる」ということが期待されているわりに全然そうなっておらず、むしろ書店はずっと利益率とともに本の価格の適切な上昇を出版社に要求してきた(つまり「それじゃ店がやっていけない」と訴えてきた)歴史がある。
その矛盾を指摘している。
出版社からしてもチャネル(売場。ここでは本屋)が多い方がいいはずで、だったら本屋を守るように運用されることが重要なのであって、目的に即していない使われ方をしているならダメでしょ、って話。再販自体が大事かどうかより、そもそも何のためにあるべきもので、どう使われているのかという内実を問うている。わかりますかね……
ただ、メーカーに「流通や小売の懐事情を察して値段を決めてください」と言っても、取次も書店も基本的に出版社の系列や子会社、特約店ではないのだから難しいに決まっている(なお、GHQがいなくなったあとで独禁法が改正されて再販が成立した時点では化粧品なども対象だったのであり、自社系列の販売店に定価を守らせて売りたい――安売りされる商品=ブランドイメージが悪い、などの理由から――というメーカーの意向があった)。
出版社、取次、書店はそれぞれ違う事業体、違う事業構造なのだから、普通に考えたら出版社が書店、取次が納得するような値付けをするのはムリである。実際、書店が希望するような値付けになってこなかった。
フランスなどでは本が売れた際の取り分の比率が出版社と本屋で近いから、インフレが起こって値上げした場合は版元も書店も両方同じくらい値上げが起こることで成り立っている。日本では出版社側の取り分が多いから、書店や取次は出版社がギリギリ黒字になる程度の値上げ幅では人件費や家賃、光熱費の上昇がカバーできない。そういう構造が問題だと言っている。
定価販売がお互いにとって利益になるように運用されるといいが、現実的にはそうなってこなかったし、原理的になりにくい。
制度自体のよしあしと、運用のよしあしの話は別。
かつ、再販はあくまで民間同士の契約(再販契約)によって法律上「定価販売が許容されている」にすぎず、「安売りや高く売ったりしたら捕まる」(違法)というものではない。
当事者間の契約次第で、ガチガチの定価販売でなくても、ゆるめようと思えばすでにゆるめられる。しかも「当事者間」というのは、業界団体同士で決まっているものですらない(業界団体はあくまで再販契約書の「ひな形」を作ることしかできない)。個社同士で契約の内容は本来、策定できる。みんなやらないだけで。
したがって再販は「制度」ではない。
ゆるめたい、弾力的に運用したい事業者がいるなら個別に交渉すればいいのであって、お上が独禁法から条文を削除するかどうかを待つ必要はない。
「書店が価格を決められるようにした方がいい」と思う版元と書店が双方にいるなら、ためしに銘柄(タイトル)を絞って非再販物にしてやってみたらいい。それは「制度」上できるし、第三者は誰も止められない。正確には再販契約は出版社ー取次、取次ー書店間で交わされているので、そういうことをしたいなら出版社と書店の直取引で個別タイトルに絞って契約した方が話が早い(取次の物流を使うことを前提にするとややこしくなると思われる)。
時限再販、部分再販といったしくみもすでにあり、雑誌も発売から一定期間すぎたら安く売られるようになっている。
定価の1%分が溜まって割引に使えるポイントサービスも含め、むかしの再販護持論者からしたら怒りで憤死するような状態がすでに現在ある。やろうと思えばできることは多い。
とはいえ「ゆるめる」=弾力的に運用する、といっても、本を安売りする方向では、そもそも利益率が低くて儲かっていない書店からしたら基本的には嬉しくない(もちろん、返品コストの書店負担が今後爆上がりするとかなら返品するより安くでも売ったほうがマシ、になる可能性は当然ある)。弾力的に価格上昇させることを認めるなら、書店経営にとってまだ意味があると思う。
あとこれは今週も別の新聞から取材を受けてそこでもまた再販について質問されて答えたのだが、「再販は全国津々浦々に安価に本を届けるために作られた」的な「文化のために」論は、出版産業側が定価販売を維持するために言ってきたロジック、方便がいつのまにかすり替わってあたかも法律の制定者側がそう考えていたかのように誤解されているだけである。
独禁法の適用除外規定が設けられて新聞・雑誌・書籍を含む著作物六品目が再販(メーカーが決めた価格で小売店に定価販売を強制する契約)の対象として認められた理由については、制定・成立経緯や当時の国会の議論、公取で制定に関わった人たちの回顧をいくら調べても、そんな話は出てこない。参考にした西ドイツの独禁法がそれらを適用除外の対象にしていたから、以上の理由は不明である。
だから「当時は誰も言っていないロジックを、まるでそうであったかのように主張するウソはよくない」「方便と歴史的事実を混同するな」と言っている。これも再販自体を否定しているわけではない。なんでか「再販を否定してる」「再販擁護論者を批判している」と誤解する人が多いけど……。戦略的にわかっていて使うこと自体は別にいい。ただ、それと事実は違うと言っている。
「再販は全国津々浦々に安価に本を届けるために」論はたいてい、国鉄の特運と混同されていると思う。
ついでに言えば、雑誌や書籍の運賃は重さで決めて距離はいくら走っても同じ価格にするという特運の規定は、戦前の大手取次のロビイングによって成立したものである。
「国民の文化・教育のためには国の津々浦々に本を流通させることが必要であり、全国一律に安価に本を運べる必要がある」と最初から国の側が考えていたかといえば、そうではない。
そしてその国鉄の特運が戦後にどんどん値上がりしたことで本屋も取次も困ってしまい、本を貨物列車で運ぶ割合はぐんぐん減っていき、現在のトラックを主軸とする出版物流が成立したのである。
で、それがトラック新法によってピンチになったので、また取次を中心に必死でロビイングしている。
■告知
最近、出版産業のロビイングについて調べたり書いたりしています。
ゆる読書について寄稿しました。
週刊SPA!電子版のおじキャラランキングについてコメントしました。
カクヨムの10周年企画に寄稿しました。
予約は満席になりましたが立ち見は大歓迎です!都内・近郊の方ぜひ
名古屋でもイベントやります。お声がけいただければどこでも行きます。
あのー、イベントといえば、書店イベントは撮影・録画不可なことが多いですが、個人的には自分が出るときにはべつに撮ってもらってかまわないと思っています。むしろ撮ったものを拡散してほしい。その方が本の宣伝になるし。店の宣伝にもなると思う。店側のポリシーで絶対禁止したいとかでないなら、登壇者の意向で決めさせてほしいですね。
「読書推進・再考」、書籍化決まりました。でも連載分だと4万字くらいしかないので倍くらい加筆予定。読書世論調査、学校読書調査を活用しようかと。
文化通信などでも報じられている通りバリューブックスが新刊販売を強化するという話。新刊と古本だと物流的に全然違うのですが、両方扱えるようになり、両方取り扱う書店が増える未来を見すえていると。
そういえば『町の本屋はいかにしてつぶれてきたか』を紹介してくれた同社の飯田さん(名字が同じなのでややこしいが血縁とかは一切ありません、念のため)が本を出すとのことで応援しています。ダイヤモンド社刊。自社からじゃないんだ!と意外に思ったけどダイヤならきっちり売ってくれるのでとても良いと思いました。
来週発売です。某YouTubeチャンネルに出る予定があります(※積読チャンネルではない)。
PISAのこととか読書と読解の関係とか、戦後の学力低下論がいかにいい加減なものだったのかとか書いています。
少し落ち着いたので書きたいことが改めていろいろあり、書ける媒体・版元を探しています。
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