シールブックやトレカを取り扱う「日本の本屋」らしさを肯定したい

今週、取材や講演で、書店でシールブックが売れていることや、トレカとの兼業についての話が重なって考えたこと
飯田一史 ichishi iida 2026.10.09
誰でも

去年から今年にかけて、シールブックがめちゃ売れている。ボンドロ以外にもシールブームが広がり、まだ続いている(ある程度収まっても、定番化する可能性もある)。

そんなに本を読まない子(とその親)も本屋に来る理由になっている。単価1500~1800円するものが、多いと10万部とか15万部とか売れている。平成女児ブームの追い風もあり、20~30代女性向けのタイトルも増えているようだ。書店にとっては本当に良いことだ。


また近年、書店でもトレカ(トレーディングカードゲーム、TCG)の売上の比率が増えているところが少なくない。
これらに対して「『本屋』なのに」と否定的に語る向きがある(時には現場で働いている書店員にすらある)。

しかし、トレカのゲームのルールはなかなかに複雑だ。各カードの性能がどういうものなのかは各カードに書いてあるが、読んでも、初見ではたいていの人には理解不可能である。ルールとひもづけて意味を読み解く力が要求される。ゲーム中には相手の動きを先読みし、すばやく計算(暗算)する必要にも迫られる。
また、対戦はあまりしなくて集めるだけの人も多いが、どのカードにどのくらいの価格が付くのかを正確に理解するには、市場価値が何で決まっているのかを学んで読み解く必要がある。どう考えても、トレカは参加者に高度なコンテクスト(文脈)の読解を求めるテキストだ。

ただシールブックやトレカを肯定できる読書論、読解論、出版産業論のロジックを書いている本は私の『ゆる読書』や『「若者の読解力低下」というウソ』『町の本屋はいかにしてつぶれてきたか』くらいしかないと思う(いずれの本でも直接は言及していないけれど)。

言いかえると、書店(とくに町の本屋)や子どもの現状や実態と乖離した読書・読解・出版産業論ばかりが流通している、と個人的には思う。

もちろん「いや、本当は別に積極的に売りたいわけではない」という声も書店には当然あるだろうし、にもかかわらずあれこれ多様な兼業商品を販売している根本的な背景には、書店マージンの低さや本の価格の安さ、仕入の自主性・裁量の制限からくる構造的な書店業のむずかしさがある。

書店業は兼業なしでは成立しづらい業態であり、また、日本では雑誌と書籍が同じ店で売られることが当たり前という国際的に見ると特殊な業態でもあり、さらには取次も本だけではペイしづらいがためにISBNコードやJANコードを取りさえすればたいていの商品を自社の物流網に載せて書店やコンビニに運んできた歴史がある。

結果として、日本の書店はいわゆる「本好き」や社会経済的地位(SES)が高い層以外にも、多様な階層の市民に対して開かれた場所になってきた。そうしたくしてしたというより、いろんな人を呼び込んでいろんなものを売らないと商売として成立しなかったから、ではあるものの。

以前、取次の物流センターを取材したときに「雑誌が一番売れていた時代によく動いていたジャンルの典型はモーター誌、ギャンブル誌、エロ本」という話が出たのだが、これは海外のいわゆる「書店」、BOOK STOREではなかなかないだろう。
そういう下世話なものはMAGAZINE(だけ)が流通する場所で売られるのであって、BOOK(書籍)の世界とは流通的にも客層(階層)的にも断絶しているからだ。

『ゆる読書』では、知性や批判的な読解だけでなく、情動やハマる(愛着、没入、感情移入)ことを肯定するポストクリティークの潮流を紹介した。

日本の本屋は、ポストクリティークで肯定されるような、人間の欲望や業や感情を素直に表出した出版物が集まり、そういうものを求める人も行き交う場として成立してきた。だから本屋を「知の拠点」などと呼ぶことは「ウソやんけ」というか、半身を無視しているなと私は思ってしまう。実態に言説がまったく追いついていないと感じてしまう。

最近、韓国のテキストヒップのことを「読書ブーム」みたいに報道・論評する向きがあるが、雰囲気を出すために高いガラスペンを買って好きな詩を書写して書き終わったらInstagramにドヤった認証ショットをアップしたり、文豪をテーマにしたパンがめっちゃ売れたり、読書会がマッチングアプリ代わりの出会いの場になったり、限定グッズを買うためにブックフェアで開幕ダッシュが起こったりしていることを「読書ブーム」とか呼ぶのは矮小化が過ぎる。もっと俗っぽい面も多分に含んだムーブメントであり、読書や本を体験やグッズに広げる動きなのであり、そういうビジネスとして仕掛けられているものでもある。

むしろ「集めたり貼ったり交換したりできるシールブックやトレカを売る本屋」というのは、ポストクリティークやテキストヒップから全然遠くない。読書観、読解観、テキスト観を拡張するような近年の国際的な動きから見てもポジティブに捉えられる(欧米では図書館でアナログゲーム、ボードゲームを提供したりしているし)。


もっとも、書店実務的にはシールブックやトレカを買いに来た人がそれしか買わないことが多く、うまく本やほかの商材と合わせ買いを促進したいがむずかしい、ということのほうが大きな悩みであって(実際、そういう質問・相談を受ける)、それには私も明快な答えを持っていない。遊戯王にハマった子は古代エジプトの本を欲しがる、みたいな話は聞いたけれど。

ただ、私はシールやトレカをがんばって売っている書店のことを応援しているし、シールやトレカ兼業書店(シールブックは流通コード上、ムックか書籍として流通しているので正確には「兼業」ですらないが)をうまく位置づけられない読書論、書店論って日本の現実や書店業の歴史的背景、あるいは国際的な読書・読解観の潮流に即してないだろ、と思う。

■告知

レコレール
@recorrer_jfn
10/12(月)の #レコレール 🚶<br />
<br />
🕑14時台は…<br />
📝レコレール・アップデーツ<br />
「こどもの読解力」について<br />
『「若者の読解力低下」というウソ』の著者<br />
出版ジャーナリストの飯田一史さん@cattowerにお話を伺います!
2026/10/08 16:55
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12日14時台にJFN系列のラジオ番組『レコレール』に出演します。

16日(金)10時から「渋谷のラジオ」に出演します。こっちのテーマは『ゆる読書』についてです。

10月8日(木)「垣花正 あなたとハッピー!」内の【中瀬ゆかりのBOOKソムリエ】にて拙稿が取り上げられました。

これね。

10月22日木の夜、紀伊國屋書店新宿本店にて稲田豊史さんとトークします。「満席」とありますが予約の座り席の話で、立ち見は自由参加で可能です。ぜひ。

こちらは名古屋でやります。この直前の時間までトーハン会での講演がありますので、トーハン帳合の中部圏の書店の皆さまはそちらにてよろしくお願いします。

12月20日~22日大分に行きます。20日(日)日中~夜は今のところ空いています。何かあればお声がけください。

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